
新卒で入社した社員の3人に1人が、3年以内に辞めていく——「3年3割」と呼ばれるこの水準は、日本の労働市場で20年以上続いています。早期離職は、採用費と教育費の損失にとどまらず、現場の負荷と採用ブランドを削る経営課題です。この記事では、早期離職の定義と最新のデータ、企業規模や業種による違い、なぜ辞めるのか、いつ辞める意思が固まるのか、そして企業ができる対策を整理します。
早期離職とは
早期離職とは、入社後おおむね3年以内に自己都合で退職することを指します。法律上の定義はなく、厚生労働省が毎年公表する「新規学卒就職者の離職状況」が「就職後3年以内の離職率」を追跡していることから、実務では「3年以内」が目安として使われます。中学卒で7割、高校卒で5割、大学卒で3割が3年以内に辞めるという傾向から、「七五三現象」と呼ばれた時期もあります。
最新の調査では、2021年3月卒の大卒者の34.9%が3年以内に離職しています(厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)」2024年10月公表)。高卒は38.4%、短大等は44.6%です。この水準は2000年代から大きく変わっておらず、景気や採用環境が変わっても「3年3割」は構造として定着しています。
事業所規模別 大卒就職者の3年以内離職率(2021年3月卒)
出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)」2024年
事業所の規模による差は大きく、5人未満では約6割、1,000人以上では約3割です。小規模な事業所ほど、受け入れが特定の先輩に依存し、同期がおらず、人事の機能が薄いという構造があります。業種では宿泊業・飲食サービス業、生活関連サービス業、教育・学習支援業などで高い傾向が続いています。
なお、離職率の「3割」は3年間の累計です。年次で見ると1年目の離職が最も多く、1年目・2年目・3年目とおおむね同じか、やや減っていく形で積み上がります。つまり「3年3割」の相当部分は、入社1年以内に離職の意思が固まった人たちで構成されています。
なぜ早期離職は起きるのか
早期離職の理由は、本人が語る言葉としては多様ですが、構造としては「入社後の期待とのギャップ」と「孤立」の2つに集約されます。
初めて勤務した会社を辞めた主な理由(複数回答・上位)
出典:厚生労働省「平成30年若年者雇用実態調査」2018年
労働時間・賃金・仕事内容は、いずれも「入社前に思っていたのと違った」という形で語られることがほとんどです。これはリアリティ・ショック——入社前の期待と入社後の現実のギャップ——であり、研究では、離職意思に直結するのは「会社の将来性や雰囲気」と「評価・賃金」に関するギャップだと示されています。人間関係は、上司や同僚と合わないという以前に、「困ったときに聞ける相手がいない」という孤立の問題として現れます。
組織社会化研究のメタ分析(Bauer et al., 2007)は、新人の定着を左右する要因として「役割の明確さ」「自己効力感」「社会的受容」を挙げています。離職理由の上位はこの3つが損なわれた状態の裏返しです。仕事が合わないと感じるのは役割が不明確で自己効力感が育たないから、人間関係がよくないと感じるのは社会的受容が得られないから、と読み替えられます。
いつ辞める意思は固まるのか
早期離職の対策で最も重要なのは、「3年以内」という統計の見かけに惑わされないことです。辞めるのは3年後でも、辞めたいと思い始めるのは入社後数ヶ月です。The Wynhurst Groupの調査では、離職の22%が入社後45日以内に起きています。研修が終わり、配属先で現場任せになる時期と重なります。
意思が固まる経路は、多くの場合こうです。配属直後に「聞いていた話と違う」と感じる → 聞ける相手がおらず、確かめられない → 「自分は役に立っていない」「ここに居場所がない」と感じる → 会社への愛着が削られる → 「辞めよう」と考え始める → 転職活動を経て、1〜3年目に退職する。退職届が出る時点で、意思は数ヶ月から1年以上前に固まっています。
この経路には、企業側から見えにくいという特徴があります。新人は「辞めたい」と口にする前に、質問が減り、1on1で「特にないです」が増え、業務外の会話に加わらなくなります。上司が忙しい時期にはこの変化は見逃され、人事は退職届で初めて知ります。早期離職の対策には、この「見えない期間」を短くする仕組み——1on1の記録と進捗を人事も見られる状態——が欠かせません。
つまり、3年目の離職を減らしたいなら、手を打つのは最初の90日です。この期間に「役割の明確さ」「自己効力感」「社会的受容」が育つかどうかで、その後の経路が決まります。具体的な組み立ては最初の90日で定着は決まるで解説しています。
企業ができる対策
早期離職の対策は、「採用でミスマッチを減らす」と「入社後の設計で適応を支える」の2つに分かれます。どちらも必要ですが、効果が大きく、企業がコントロールできるのは後者です。
採用でミスマッチをゼロにすることはできません。面接で見極められるのは能力と志向の一部であり、「この会社の雰囲気に合うか」「上司と相性がよいか」は入社してみなければわかりません。一方、入社後の設計は組織が完全にコントロールできます。ギャップを言葉にする場、聞ける相手、小さな成功体験、進捗の共有——これらは採用の質にかかわらず、すべての新人に効きます。対策の重心を入社後に置くべき理由はここにあります。
早期離職の対策の整理
| 時点 | 対策 | 何に効くか |
|---|---|---|
| 採用 | 仕事の大変さ・制約・評価のされ方まで具体的に伝える(RJP) | 期待の膨張を防ぎ、ギャップを小さくする |
| 入社直後 | 90日のゴールを決め、相談先を固定し、週1回の1on1を予定に入れる | 役割の明確さ、社会的受容 |
| 1〜3ヶ月 | 取り返せる大きさの仕事を任せ、具体的なフィードバックを返す | 自己効力感 |
| 継続 | 進捗と1on1の記録を人事も見られる状態にし、予兆に早く気づく | 事後対応から事前対応へ |
| 経営 | 年間の離職損失を数字にし、受け入れの整備を投資として判断する | 現場任せからの脱却 |
早期離職を防ぐ3つの原則
- 統計の「3年」ではなく、意思が固まる「最初の90日」に投資を集中する
- 受け入れを特定の先輩の力量に頼らず、誰が入社しても同じ質で回る仕組みにする
- 離職の損失を数字にして、経営の投資判断に載せる
3つ目の「損失を数字にする」ことは、対策の予算を確保するための前提です。早期離職1人あたりの損失は採用費に年収の約2割を加えた150万〜200万円規模になり、年間の離職者数を掛ければ経営が判断できる金額になります。試算の方法は早期離職のコストはいくらかで解説しています。
小規模な事業所ほど離職率が高い理由は、受け入れが人に依存しやすいからです。逆に言えば、90日のゴール・相談先の固定・週次1on1の3つを仕組みにするだけで、小規模な組織でも「1,000人以上の企業並み」の受け入れは実現できます。onbx(WellColab が提供するオンボーディング基盤)は、90日のジャーニーと1on1の記録を新人・現場・人事で共有し、規模にかかわらず同じ質の受け入れを続けられるように設計されています。
よくある質問
「3年3割」は昔から変わらないのですか?
変わっていません。大卒の3年以内離職率は2000年代から30%台前半〜後半で推移しており、景気や採用環境が変わっても大きくは動いていません。構造的な問題であり、個々の企業の努力で「自社の数字」を下げることは可能ですが、全体の水準は動きにくいと考えたほうが現実的です。
早期離職は必ずしも悪いことではないのでは?
本人にとって合わない環境から離れることは合理的な選択であり、すべての離職が悪いわけではありません。問題は「防げたはずの離職」です。入社後の孤立や説明不足で辞めた人は、受け入れの設計が違えば定着していた可能性が高く、その損失は企業にとって純粋なコストです。
中途採用者の早期離職も同じように考えてよい?
基本は同じですが、中途は「即戦力」と見なされて支援が薄くなりやすく、同期がいない分だけ孤立しやすい傾向があります。前職とのギャップを初週の1on1で確認する項目を入れるなど、新卒以上に相談先の固定が重要です。
小さな会社では人事担当もいない。何から始めればよい?
90日のゴールを紙に書く、相談先を決めて初日に伝える、週1回15分の1on1を予定に入れる、の3つです。費用はかかりません。小規模ほど1人の離職の影響が大きいので、この3つを「仕組み」として決めておくことの効果は大企業より大きいと言えます。
さいごに
早期離職とは入社後おおむね3年以内の退職を指し、大卒では34.9%、小規模な事業所では6割近くが該当します。理由の上位は労働時間・人間関係・賃金・仕事の不適合ですが、構造としては「期待とのギャップ」と「孤立」に集約され、辞める意思は入社後数ヶ月で固まります。対策の中心は採用の見極めではなく、最初の90日の設計です。オンボーディングの全体像はオンボーディングとはをあわせてご覧ください。



