
予期的社会化 とは
組織に入る前に、仕事や組織について知り、心の準備をすることで、入社後の適応に備える過程。
予期的社会化(anticipatory socialization)は、「組織に入る前から社会化は始まっている」という考え方を表す概念です。プリボーディングやRJPの理論的な根拠であり、「入社前に何を伝えるか」を決める際の指針になります。この項目では、定義と背景、2つの区別、研究が示す効果、実務への応用を整理します。
意味と背景
予期的社会化とは、組織に入る前に、仕事や組織について知り、心の準備をすることで、入社後の適応に備える過程です。組織社会化の過程は、個人が生まれ育った家庭環境や地域、学校教育、採用プロセスなどの影響によって、組織に参入する前から始まっているとされます(Van Maanen, 1976)。
組織社会化の段階モデルでは、予期的社会化は「入社前」の段階として位置づけられ、入社直後の「遭遇」、役割が安定する「変化・獲得」へと続きます。入社前にどれだけ正確な予期ができていたかが、遭遇段階でのギャップ——リアリティ・ショック——の大きさを左右します。
2つの区別:職業的と組織的
予期的社会化は、対象によって2つに分けられます(Jablin, 1987)。
予期的社会化の2つの区別
| 区別 | 対象 | 具体例 |
|---|---|---|
| 職業的予期的社会化 | 仕事・職業に関する知識と準備 | 営業とは何をする仕事か、1日の流れ、必要なスキル、繁忙期 |
| 組織的予期的社会化 | 特定の組織に関する知識と準備 | この会社の事業、報酬制度、社風、評価のされ方、意思決定のやり方 |
日本は「就職ではなく就社」と言われ、仕事より会社への期待が形成されやすいため、組織的予期的社会化のほうが重要だと予想されていました。しかし研究の結果は、その予想とは異なるものでした。
研究が示す効果の違い
若年ホワイトカラー227名を対象にした分析では、職業的予期的社会化(入社前の仕事に関する知識)が、入社後の仕事の習得(職業的社会化)と組織文化の理解(文化的社会化)の両方を高めていました。一方、組織的予期的社会化(入社前の会社に関する知識)は、社会化ではなく、会社への愛着(情緒的コミットメント)を高め、離職意思を下げていました(尾形真実哉『若年就業者の組織適応』白桃書房, 2019)。
つまり、「仕事のこと」を入社前に知っている人は入社後に早く立ち上がり、「会社のこと」を入社前に知っている人は会社を好きになり辞めにくい——効く先が違います。会社に関する正確な事前情報が愛着を高めるのは、Wanous(1992)が指摘した「自分で選んで入った」という自己決定の感覚(スクリーニング効果・コミットメント効果)によると解釈されています。
実務への応用
この結果から、入社前に伝えるべきことは明確です。仕事については、1日の流れ、繁忙期、よくある失敗、必要なスキル。会社については、事業、制度、社風、評価のされ方、意思決定の実態。どちらか一方ではなく、両方を具体的に伝えます。
伝え方については、口頭の説明や資料より、実際に働く経験のほうが効くとされています。配属候補の職場で数日働く、現場の社員と話す機会を作る、といった方法です。新卒一括採用では配属が入社前に決まらないことが多いものの、配属可能性の高い職場数か所で数日過ごすだけでも、予期的社会化の程度は高められます。入社後の数か月を試用期間として複数の職場で働く方法も、同じ効果を持ちます。
なお、予期的社会化が効くのは入社直後の遭遇型のリアリティ・ショックまでです。2年目以降に生じる擦り合わせ型のショックは、入社前の情報では防げず、入社後のマネジメントが必要です。入社前から入社後までの流れはプリボーディングとは、入社前後の支援の全体像は適応エージェントで解説しています。
入社前に会社のことを伝えすぎると、辞退が増えませんか?
増える場合がありますが、辞退するのは「知っていれば入社後に早期離職していた人」です。会社に関する正確な事前知識は、入社後の愛着を高め離職意思を下げることが研究で示されており、辞退の増加より定着の改善のほうが大きいと考えられます。
インターンシップは予期的社会化に効きますか?
効きます。特に、配属候補の職場で実際の仕事を経験するインターンは、職業的予期的社会化(仕事の知識)と組織的予期的社会化(会社の知識)の両方を高めます。説明会型より、就業体験型のほうが効果は大きいと考えられます。



