
RJP(現実的職務予告) とは
採用の段階で仕事や組織の現実を良い面も悪い面も含めて伝え、入社後のギャップを減らす手法。
RJP(現実的職務予告)は、採用の場面で「うちはこんなに良い会社です」と魅力だけを伝えるのではなく、仕事の大変さや組織の現実も含めて正直に伝える手法です。入社前の期待と入社後の現実のギャップ——リアリティ・ショック——を減らし、早期離職を抑える目的で使われます。この項目では、RJP の定義と4つの効果、研究が示す限界、そして採用からオンボーディングまでの使い方を整理します。
RJP の意味と背景
RJP は Realistic Job Preview の略で、組織心理学者のワナウスが体系化した概念です(Wanous, 1992)。採用活動では、応募者を惹きつけるために組織の良い面を強調しがちです。その結果、入社後に「聞いていた話と違う」というギャップが生じ、会社への愛着が下がり、離職につながります。RJP は、このギャップの原因を入社前に取り除こうとする考え方です。
日本では「就職ではなく就社」と言われるように、仕事内容より会社そのものへの期待が形成されやすく、入社後に仕事・対人関係・評価などの面でギャップに直面します。厚生労働省の「新規学卒就職者の離職状況」(2024年公表)では大卒者の3年以内離職率は34.9%で、そのうち1年目の離職が12.2%を占めます。入社直後のギャップへの対処として、RJP は最も基本的な手段です。
RJP の4つの効果
ワナウスは RJP の効果を4つに整理しています。
- ワクチン効果:現実をあらかじめ知っておくことで、入社後にギャップに遭遇しても衝撃が和らぐ
- 自己選択(スクリーニング)効果:現実を知ったうえで「それでも入りたい」と自分で選ぶため、合わない人が入社前に辞退する
- コミットメント効果:自分で選んだという意識が、入社後の組織への愛着を高める
- 役割明確化効果:仕事の内容と期待される役割が入社前に明確になり、立ち上がりが早くなる
若年就業者227名を対象にした日本の研究でも、入社前に会社に関する正確な事前知識を持っていた人ほど、入社後の会社への愛着が高く、離職意思が低いことが示されています(尾形真実哉『若年就業者の組織適応』白桃書房, 2019)。同じ研究では、仕事に関する事前知識は入社後の仕事の習得と組織文化の理解を早めていました。「会社のこと」と「仕事のこと」の両方を、入社前に具体的に伝えることの意味がここにあります。
RJP の限界:2年目以降には効かない
RJP は万能ではありません。尾形(2019)は、リアリティ・ショックを入社直後に起きる「遭遇型」と、1年目の経験を経て2年目以降に理想と現実を擦り合わせる中で生じる「擦り合わせ型」に分け、RJP が抑えられるのは遭遇型だけだと指摘しています。擦り合わせ型は離職意思に直結しますが、入社前の情報提供では防げず、入社後の組織現実のマネジメント——2年目研修や上司との対話——が必要です。
もう一つの限界は、伝え方です。「うちは厳しい」「大変だ」と抽象的に言うだけの RJP は、期待を「具体的に」ではなく「低く」するだけで、入社後の「思ったより良い」というポジティブ・サプライズも起きにくくなります。RJP の本質は、期待の高さを下げることではなく、期待の解像度を上げることです。
オンボーディングでの使い方
採用からオンボーディングまでの RJP の実装例
| 場面 | 伝えること | 形式 |
|---|---|---|
| 求人票・採用サイト | 1日の仕事の流れ、繁忙期、よくある失敗 | 現場社員の1日を時系列で書く |
| 面接 | 「この仕事で辞める人が辞める理由」を面接官が正直に話す | 質問を待たず面接官から切り出す |
| 内定期間 | 配属候補の職場で数日働く、先輩と話す機会 | プリボーディングの一部として設計する |
| 入社初週 | 最初の3か月に何が起き、何が難しいかを上司が説明する | 90日プランの共有 |
RJP は採用担当だけの仕事ではありません。内定期間から入社初週にかけて、現場の上司と先輩が「現実」を語る場を持つことで、入社前の情報が入社後の受け入れにつながります。入社前から入社後までを一つの流れとして設計する考え方は、プリボーディングとはとリアリティ・ショックとはで詳しく解説しています。
RJP で現実を伝えると、応募者が減りませんか?
減る場合がありますが、減るのは「現実を知れば辞退する人」です。入社後に早期離職するはずだった人が入社前に辞退するのは、自己選択効果であり、採用コストの節約になります。一方で、現実を具体的に伝える企業は誠実さの面で評価され、応募の質は上がる傾向があります。
RJP はどの程度「悪い面」を伝えるべきですか?
「悪い面を強調する」のではなく「具体的にする」のが基準です。「残業が多い」ではなく「月末の3日間は20時まで残ることが多い」のように、応募者が自分の生活に当てはめて判断できる粒度で伝えます。抽象的に「大変だ」と言うだけの RJP は、期待を下げるだけで効果が薄くなります。
中途採用にも RJP は有効ですか?
有効です。中途は前職との比較でギャップを感じやすく、特に「前職より裁量が小さい」「決裁が遅い」といった組織面のギャップが離職につながります。面接で組織の意思決定の実態を伝えることが、中途向けの RJP になります。



