
RJP(現実的職務予告)という言葉を知っている人事は増えました。ところが実際の面接では、「うちは正直、大変な会社ですよ」と一言添えて終わっていることが少なくありません。これは期待を下げているだけで、RJP とは呼べません。
RJP でやりたいのは、期待を低くすることではなく、期待をくっきりさせることです。「大変です」ではなく「月末の3日間は20時まで残ることが多い」と言う。何を伝え、どの場面で誰が話し、どう言い換えるか。順に見ていきます。
「大変です」と言うだけでは、期待が下がるだけ
RJP(Realistic Job Preview)は、採用の段階で仕事や組織の現実を、良い面も悪い面も含めて伝え、入社後のギャップを減らす手法です(Wanous, 1992)。定義と背景は用語集:RJPにまとめています。効果は4つに整理されています。
RJP の4つの効果
| 効果 | 内容 | 実務での現れ方 |
|---|---|---|
| ワクチン効果 | 現実をあらかじめ知っておくことで、入社後にギャップに遭遇しても衝撃が和らぐ | 「聞いていたとおりだった」と言える |
| 自己選択効果 | 現実を知ったうえで「それでも入りたい」と自分で選ぶ。合わない人は入社前に辞退する | 早期離職するはずだった人が、入社前に辞退する |
| コミットメント効果 | 自分で選んだという意識が、入社後の組織への愛着を高める | 「自分で決めて入った」という感覚 |
| 役割明確化効果 | 仕事の内容と期待される役割が入社前に明確になり、立ち上がりが早くなる | 初日から「何をする仕事か」がわかっている |
4つとも、伝え方を間違えると働きません。「うちは厳しい」「大変だ」とぼんやり言うだけでは、期待が低くなるだけです。低い期待で入社した人は、入社後に「まあこんなものか」で終わり、愛着は育ちません。良い驚き(ポジティブ・サプライズ)も起きにくくなります。
一方、「月末の3日間は20時まで残ることが多い」「最初の3か月は先輩の商談に同席し、自分で商談を持つのは4か月目から」と具体的に伝える RJP は、期待の高さを変えずに解像度を上げます。応募者は自分の生活や希望に当てはめて判断でき、入社後は「聞いていたとおり」と受け取ります。伝えた以上の関わりを実際に提供すれば、良い驚きも生まれます。
仕事の話と同じくらい、会社の話をする
伝えるのは、仕事のことと、会社のことの両方です。若年就業者227名を対象にした研究では、入社前の仕事に関する事前知識(職業的予期的社会化)が入社後の仕事の習得と組織文化の理解を早め、会社に関する事前知識(組織的予期的社会化)が会社への愛着を高めて離職意思を下げることが示されています(尾形真実哉『若年就業者の組織適応』白桃書房, 2020)。効く先が違うので、片方だけでは足りません。
仕事について伝えること:1日の流れ、繁忙期と閑散期、最初の3か月に何をするか、よくある失敗、必要なスキルと身につく順序、評価の基準。
会社について伝えること:事業の現状と方向、意思決定のやり方と速さ、上司と部下の関係、報酬制度と昇格の道筋、この会社で辞める人が辞める理由。
最後の「辞める人が辞める理由」は、いちばん言いにくく、いちばん効く項目です。面接官が「うちで1年以内に辞める人は、○○と△△を理由に挙げることが多いです」と先に言えば、応募者はそれが自分に当てはまるかを考えられます。当てはまる人は辞退するでしょう。それは採用の失敗ではなく、自己選択効果が働いたということです。
求人票は人事、面接は現場の管理職、初週は上司
RJP の接点別の実践
| 接点 | 担う人 | 伝えること | 形式 |
|---|---|---|---|
| 求人票・採用サイト | 人事 | 1日の仕事の流れ、繁忙期、よくある失敗、最初の3か月 | 現場社員の1日を時系列で書く。「やりがい」の言葉より、時刻と行動 |
| 面接 | 面接官(現場の管理職) | 「この仕事で辞める人が辞める理由」、意思決定のやり方、評価の基準 | 質問を待たず、面接官から切り出す。応募者の反応で自己選択を促す |
| 内定期間 | 現場の先輩・配属候補の上司 | 配属候補の職場で数日働く、先輩と話す、最初の30日に何が起きるか | 口頭より体験。プリボーディングの一部として設計する |
| 入社初週 | 直属の上司 | 最初の90日に何が起き、何が難しいか。役割の4要素 | 90日プランの共有。「聞いていたとおり」を上司が言う |
表の「担う人」の列を見てください。場面ごとに話す人が違います。人事だけで RJP をやると、「人事に聞いた話と現場が違う」という新しいギャップが生まれます。面接では現場の管理職が、内定期間には現場の先輩が、初週には直属の上司が、それぞれの立場から現実を話す。そうすると、入社前に聞いた話が入社後の受け入れにそのままつながります。入社前から入社後までを一続きで設計する考え方はプリボーディングとはに書きました。
「残業は多めです」を言い換える
「期待を下げる」表現と、「解像度を上げる」表現
期待を下げる(抽象)
- 「残業は多めです」
- 「最初は雑用も多いです」
- 「厳しい会社です」
- 「成長できる環境ですが、大変です」
- 「アットホームな職場です」
解像度を上げる(具体)
- 「月末の3日間は20時まで残ることが多く、それ以外は18時に帰れる日がほとんどです」
- 「最初の1か月は議事録と資料の修正が半分を占めます。2か月目から自分の担当を持ちます」
- 「四半期ごとに数字で評価され、未達が2四半期続くと上司との面談があります」
- 「1年目の終わりに、自分で顧客を3社持っている状態を目指します。そこまでに商談の同席が20回あります」
- 「部署は12人で、平均年齢は31歳。週1回の定例以外は各自の裁量で動きます」
右の列に共通しているのは、時刻・回数・期間の数字が入っていることと、「良い」「大変」のような評価の言葉が、何をしているかの説明に置き換わっていることです。応募者が自分の生活に当てはめて考えられるところまで具体的にすると、期待の高さはそのままで、中身だけがはっきりします。
中途採用者向けの RJP
中途で入る人は、前の職場と比べてギャップを感じます。新卒向けに話す仕事の中身以上に、組織の実態を伝える必要があります。どこまで自分で決められるか、決裁にどれくらいかかるか、上司との距離、前の職場との違い。研究でも、リアリティ・ショックのうち評価と組織に関するものが離職意思に直結することが示されており(尾形, 2020)、中途では、この2つがとくに起きやすいのです。
中途採用者向けに面接で伝えること
| 項目 | 伝え方の例 |
|---|---|
| 裁量の範囲 | 「予算○万円までは担当者判断。それ以上は部長決裁で、通常3営業日かかります」 |
| 意思決定の速さ | 「新しい施策は四半期の計画会議で決めます。思いついてすぐ動く文化ではありません」 |
| 前職との違い | 「前職が○○業界なら、うちは△△の点で遅く感じると思います」 |
| 評価の基準 | 「入社半年は前職の実績を問わず、この会社での立ち上がりで評価します」 |
| 辞める人の理由 | 「中途で1年以内に辞めた人の理由は、決裁の遅さと、担当領域の狭さです」 |
2年目のギャップには効かない
RJP で何でも防げるわけではありません。尾形(2020)は、リアリティ・ショックを2種類に分けています。入社直後に現実とぶつかって起きる「遭遇型」と、1年目を過ごしたあと、2年目以降に理想と現実をすり合わせる中で起きる「擦り合わせ型」です。RJP で抑えられるのは遭遇型だけで、擦り合わせ型は入社前の情報では防げません。こちらも離職の意思に直結するので、入社後に上司と話す場や、2年目の支援で手当てすることになります。
RJP は入社前の手立てで、入社後の受け入れの代わりにはなりません。求人票・面接・内定期間で期待をはっきりさせ、初週に上司が「聞いていたとおりでしたか」と確かめ、そのあとも90日、2年目と、ギャップを口に出せる場を残しておく。そこまでやって、ようやく RJP が効いてきます。
求人票・面接・内定期間で伝えた「現実」と、入社後の90日の設計が一致しているかは、採用と受け入れが別々に動いている組織では検証できません。onbx(WellColab が提供する AI自律型オンボーディングプラットフォーム)は、90日ジャーニーの初週タスクに「採用時に伝えた現実の確認」を置き、60日サーベイの「入社前の想像と違ったこと」の回答を採用側に戻すことで、RJP で伝える内容そのものを、退職者ではなく在籍者の声で更新できるようにします。
よくある質問
現実を伝えると、応募者が減りませんか。
減る場合がありますが、減るのは「現実を知れば辞退する人」です。入社後に早期離職するはずだった人が入社前に辞退するのは自己選択効果であり、採用コストの節約になります。一方、現実を具体的に伝える企業は誠実さの面で評価され、応募の質は上がる傾向があります。
どこまで「悪い面」を伝えるべきですか。
「悪い面を強調する」のではなく「具体的にする」のが基準です。「残業が多い」ではなく「月末の3日間は20時まで」のように、応募者が自分の生活に当てはめて判断できる粒度で伝えます。抽象的に「大変だ」と言うだけの RJP は、期待を下げるだけで効果が薄くなります。
RJP をしたのに、早期離職が減りません。
2つの可能性があります。一つは、伝えた内容が抽象的で解像度が上がっていないこと。もう一つは、人事が伝えた現実と現場の実態が違うこと。後者の場合、面接に現場の管理職を入れ、内定期間に現場の先輩と話す機会を作ることで、「人事の話」と「現場の実態」のギャップを埋めます。それでも減らない場合は、入社後の設計(役割の付与、上司の1on1)の問題です。
中途採用にも RJP は使えますか。
使えます。中途は前職との比較でギャップを感じやすく、特に裁量の大きさや決裁の速さといった組織面のショックが離職につながります。面接で組織の意思決定の実態と「前職との違い」を伝えることが、中途向けの RJP になります。
次の面接で一つだけ変えるなら、「うちで1年以内に辞めた人は、こういう理由が多かったです」と、聞かれる前に面接官から話すことです。入社直後のギャップについてはリアリティ・ショックとは、伝えた以上の関わりで生まれる良い驚きについてはポジティブ・サプライズとはに書いています。



