
フルリモートで入った新人が、3か月たってから退職を申し出る。面談で話を聞くと、入社してから誰にも相談していなかった。出社が当たり前だった頃には、あまり聞かなかった話です。
出社の職場なら、廊下ですれ違えば声をかけられ、隣の席の先輩に「これどうやるんですか」と聞けて、上司も新人の顔を見て「困ってそうだな」と気づけました。フルリモートでは、こうした偶然の接点がまるごと消えます。孤立の心理面は新人はなぜ孤立するのかで書いたので、ここではその先、受け入れを実際にどう回すかを扱います。会う回数、読めばわかる情報、初週の順番、質問の窓口の4つです。連載「職種・働き方別オンボーディング」の第1回です。
リモートで消えるのは、誰も設計していなかった接点
出社の受け入れには、誰も設計していない接点がたくさんありました。新人が席に着けば周りが声をかけ、わからなければ隣に聞き、昼食に誘われ、上司は新人の顔色を見る。誰も決めていないのに、ちゃんと働いていた接点です。フルリモートではこれがゼロになり、残るのはカレンダーに入っている会議と、チャットに書かれた文字だけです。
新人がなじむには、役割の明確さ、自己効力感、周囲から受け入れられている感覚が要ります(Bauer et al., 2007)。出社なら、これが偶然の接点で少しずつ満たされていました。リモートでは、用意した接点だけで満たすしかありません。リモートだから新人が育たないのではなく、用意しなかった部分がそのまま抜け落ちる、ということです。
会う回数は、最初に予定表へ入れてしまう
最初に決めるのは、どれだけ会うかです。出社で偶然に起きていた接点を、回数に置き換えて予定に入れます。
フルリモートの新人に対する接点の設計(最初の90日)
| No. | 接点 | 頻度 | 誰が | 目的 | 出社での相当物 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 朝の15分 | 毎日(最初の30日) | 上司またはバディ | 今日やること・困っていることを口頭で。カメラオン | 朝の「おはよう」と席での会話 |
| 2 | 1on1 | 週1回30分 | 上司 | 役割の確認、今週の手応え、次に変えること | 上司が表情を見て声をかける |
| 3 | バディとの雑談 | 週2回15分 | バディ(2〜3年目) | 業務外の話も含めて。「聞きにくいこと」の受け皿 | 昼食・廊下の会話 |
| 4 | チームの定例 | 週1回 | チーム | 新人が発言する枠を5分作る。「今週学んだこと」 | チームの朝会 |
| 5 | 質問チャンネル | 常時 | 全員 | 質問専用。24時間以内に誰かが返す | 隣の席への「これどうやるんですか」 |
| 6 | 週次サーベイ | 週1回 | 人事 | 3問。困ったときに聞ける相手がいるか、役割はわかっているか | 上司の観察 |
全部足すと、最初の30日は1日30分ほどを誰かと同時に過ごすことになります。多いと感じるかもしれませんが、出社の新人は初日から毎日、それ以上の接点を偶然に得ています。
バディについては、Microsoft の調査がわかりやすい数字を出しています。入社90日でバディと8回以上会った新人の97%が「バディのおかげで早く戦力になれた」と答え、1回しか会わなかった新人では56%でした(HBR, 2019)。効くのは、バディがいるかどうかより、何回会ったかです。リモートではその回数を偶然に頼れないので、予定として固定します。バディ制度の設計は、リモートなら「週2回・15分・カメラオン」まで決めてしまってください。
聞かなくても、読めばわかるようにしておく
出社なら誰かに聞けば済んだことが、リモートでは誰に聞けばいいかわからずに止まります。だから、聞かなくても読めばわかる状態を先に作っておきます。
入社前〜初週までに非同期で読める状態にしておく情報
| No. | 情報 | 内容 | 形式 |
|---|---|---|---|
| 1 | 会社と事業 | 何を誰に提供しているか、今期の重点、組織図と各部門の役割 | 10分で読める1ページ+動画 |
| 2 | チームと人 | メンバーの顔写真・担当・得意なこと・「こんなことは私に聞いて」 | メンバー紹介ページ(本人が書く) |
| 3 | 仕事の進め方 | ツールの使い方、会議の種類と目的、意思決定の場、承認の流れ | 手順書+短い動画 |
| 4 | 用語と暗黙のルール | 社内用語、チャットの作法(メンション・返信の期待値)、休みの取り方 | 用語集+「暗黙のルール集」 |
| 5 | 最初の90日 | 到達目標、週ごとの予定、誰と会うか、評価の基準 | 90日プラン(本人と共有) |
この中で、リモートでとくに効くのが「暗黙のルール集」です。チャットにはすぐ返すものなのか。会議で一度も発言しないのは失礼なのか。休みの連絡はチャットでいいのか。出社なら周りを見て覚えられたことが、リモートでは誰にも聞けないまま新人をすり減らします。新人がぶつかる「予想外の出来事」に意味を教えてくれる相手がいるかどうかで、なじみ方は変わります(Louis, 1980)。リモートではその相手がいつもそばにいるわけではないので、文書に一部を肩代わりさせます。できればプレボーディングのうちに読めるようにしておいてください。
初日に仕事の話をしない
リモートの初週でいちばん多い失敗は、初日に仕事の説明から入ることです。PCが届いていない、アカウントがない、誰が誰だかわからない。その状態で仕事を渡されると、新人は初日から「聞けない、できない」を味わいます。順番は、環境、人、仕事です。
フルリモートの初週の設計
| No. | 日 | 主題 | すること |
|---|---|---|---|
| 1 | 入社前 | 環境 | PC・アカウント・必要なツールを入社3日前までに届け、初日前に接続テストを済ませる |
| 2 | 1日目 | 環境と人 | 午前:上司と30分(役割・90日・今週の予定)。午後:バディと1時間、チームメンバーと15分ずつの顔合わせ。仕事の話はしない |
| 3 | 2〜3日目 | 人と情報 | 非同期の情報を読む時間を確保。読んで出た質問を質問チャンネルに書く練習。関係部門の人と15分ずつ |
| 4 | 4〜5日目 | 仕事 | 最初の小さなタスク(1日で終わる、失敗しても影響がない)を渡す。バディがペアで進める |
| 5 | 週末前 | 振り返り | 上司と30分。「今週わかったこと・わからなかったこと」。翌週の予定を一緒に決める |
仕事より先に人と会わせるのは、聞ける相手を作るためです。名前と顔と担当がわかる相手が5人いれば、新人は2週目から自分で聞きに行けます。ゼロのまま仕事を渡すと、質問は全部上司に集まり、上司が忙しい週は止まります。
「ちょっといいですか」を、文字でも言えるようにする
リモートの質問は文字です。出社なら「ちょっといいですか」で済んだことが、チャットでは「こんなことを書いて残していいのか」という壁になります。このチームでは恥ずかしい質問をしても大丈夫だ、と思えるかどうか(心理的安全性、Edmondson, 1999)が、リモートでは文字の上で試されます。
文字で質問しやすくするために、チームで決めておくこと
- 質問専用チャンネルを作り、「どんな質問でも歓迎」を上司が最初に書く。上司自身が初歩的な質問をして見せる
- 返信の期待値を決める。「24時間以内に誰かが返す」を約束し、誰も返せないときは上司が「見ています」とだけ返す
- 質問に「ありがとう」を返す文化を作る。質問した人が損をしない形(質問がFAQに蓄積され、次の人が助かる)にする
- 週1回の1on1で「聞けなかったこと」を聞く。テキストに書けなかった質問は、口頭で拾う
上司の側にも、見えない新人を見ようとする手間が要ります。会社への愛着をいちばん左右するのは、つらいときに相談に乗ってくれる上司がいるかどうかでした(尾形真実哉『若年就業者の組織適応』白桃書房, 2020)。リモートでは、新人が「この上司はちゃんと見てくれている」と感じられるくらいの頻度で、それを示す必要があります。週次サーベイの「困ったときに聞ける相手はいましたか」が2週続けて下がったら、接点を増やす。リモートでは、上司の観察の代わりにパルスサーベイを使います。
フルリモートの受け入れ:偶然に任せた場合と設計した場合
偶然に任せる
- 初日にPCが届いていない。上司が「とりあえずSlackに入っておいて」
- 会議に呼ばれた分だけ人と話す。バディはいるが「何かあれば聞いて」で終わる
- 情報は「聞けば教える」。新人は何を聞けばよいかわからない
- 3か月後、誰にも相談していなかったことが退職の申し出で判明する
設計する
- 入社3日前に環境が整い、初日は上司・バディ・チームとの顔合わせだけ
- 毎日15分・週1回30分・バディ週2回が予定に入っている。接点の回数が担保される
- 事業・人・進め方・暗黙のルールが読める状態。質問はチャンネルに24時間以内に返る
- 週次サーベイで「聞ける相手がいるか」を毎週見る。下がったら接点を足す
初週だけでも出社させるべきですか。
できるなら、初週の2〜3日だけでも集まる日を作ると効きます。一度顔を合わせておくと、その後のチャットの気安さがまるで違います。集まれない場合も、初日の顔合わせをカメラオンで15分ずつ丁寧にやれば、かなりの部分は補えます。出社できないことを嘆くより、出社の代わりに何を置くかを考えたほうが早いです。
カメラオンを強制してよいですか。
最初の30日の「朝の15分」と「1on1」だけは、カメラオンをお願いする理由(表情を見て困りごとに気づきたい)を説明したうえで求めてください。それ以外の会議は本人の判断でかまいません。強制ではなく、目的を伝えたうえでの依頼にすると、新人も納得して応じやすくなります。
接点が多すぎて、上司もバディも負担ではありませんか。
最初の30日に集中させ、以降は減らす設計にしてください。朝の15分は30日で終了、バディの雑談は60日で週1回に、1on1は90日以降も週1回のまま。上司の負担は月に4〜5時間程度で、出社の新人にかけていた偶然の時間より少ないはずです。負担が重いと感じるなら、朝の15分をバディに任せ、上司は1on1だけを担います。
時差のある海外メンバーの受け入れはどうすればよいですか。
同期の接点を「重なる2〜3時間」に集中させ、それ以外を非同期で設計します。朝の15分は重なる時間帯に置き、質問チャンネルの返信期待値を「相手の営業時間内で24時間」に緩め、非同期の情報(設計2)をとくに厚くします。バディは同じ時間帯の人を選ぶか、時間帯ごとに2人置くと、質問が止まりません。
連載:職種・働き方別オンボーディング
- 第1回フルリモートのオンボーディング|偶然の接点がゼロの前提で、接点の量と初週を設計する
- 第2回シフト勤務のオンボーディング|「誰も新人を見ていない日」をなくす、シフト表からの設計
- 第3回ハイブリッド勤務のオンボーディング|「出社したのに誰もいない」を防ぐ、出社日の設計



