
新人との1on1で「何か困っていることは?」と聞くと、「特にないです」「大丈夫です」と返ってくる。会話が続かず、結局は進捗確認になる——多くの上司が経験する行き詰まりです。原因は新人の口の重さではなく、問いの形にあります。「困っていることは?」は、新人にとって最も答えにくい問いです。この記事は、新人1on1の問いを、答えやすい形に言い換えたうえで、入社からの時期別に整理した質問テンプレートです。各回3〜4問、30分で使えます。
なぜ「困っていることは?」は答えにくいのか
新人は、何が「困っていること」に該当するのかを判断できません。自分の状態が普通なのか異常なのかの基準を持たず、「これを言ったら評価が下がるのでは」「こんなことで困っていると思われたくない」という遠慮もあります。研究でも、勤続年数が浅いほど、自ら質問やフィードバックを求める行動は取れていないことが示されています(尾形真実哉『若年就業者の組織適応』白桃書房, 2020)。
答えやすい問いには共通点があります。「状態」ではなく「行動」を聞く。「評価」ではなく「事実」を聞く。「全体」ではなく「一つ」を聞く。この3つで、問いを言い換えます。
答えにくい問いと、言い換え
| 答えにくい問い | なぜ答えにくいか | 言い換え |
|---|---|---|
| 困っていることは? | 何が「困っていること」か判断できない | 今週、時間がかかった仕事はどれ? |
| 調子はどう? | 基準がなく、「普通です」以外に答えがない | 今週、一番手応えがあった仕事は? |
| わからないことはある? | 「わからないことがわからない」 | 今週、誰かに聞いて解決したことは? 聞けずに進めたことは? |
| 職場には慣れた? | 「はい」以外に答えようがない | 困ったとき、最初に誰に聞いている? |
| 何か提案はある? | 遠慮して出てこない | 「前からこうだったのかな」と思ったことは? |
| 成長できている? | 自己評価を求められ、答えにくい | 先月できなかったことで、今できるようになったことは? |
問いの5系統
新人1on1の問いは、5つの系統に分けられます。新人の適応を測る3指標——役割の明確さ・自己効力感・周囲からの受容(Bauer et al., 2007)——に対応する3系統と、経験を学びに変える「内省」、期待と現実の差を拾う「ギャップ」です。
- 役割:何をすべきか、どう評価されるかを本人が説明できるか
- 手応え:任された仕事をやり切れた感覚があるか。難易度は適切か
- 受容:聞ける相手がいるか。職場に受け入れられている感覚があるか
- 内省:行動を振り返り、「次はこうする」という教訓を引き出せているか
- ギャップ:入社前の期待と現実の差。悪い驚きと良い驚きの両方
時期によって重点は変わります。初週は役割、30日は受容、60日はギャップと内省、90日は次の目標。以下、時期別のテンプレートです。
時期別の質問テンプレート
初週(最初の1on1):役割の読み合わせ
初週の1on1の目的は、役割の4要素(期待される成果・やること・判断の範囲・評価の基準)を本人と読み合わせ、「聞くことは仕事の一部」を伝えることです。
初週の問い(30分・4問)
| 系統 | 問い | 狙い |
|---|---|---|
| 役割 | 最初の30日で何を目指すか、自分の言葉で言ってみてくれる? | 役割の4要素が「渡した」から「理解した」になっているか |
| 役割 | 自分で決めてよいことと、必ず相談することの線は、どこだと理解している? | 判断の範囲の確認。曖昧なら上司が言い直す |
| 受容 | 困ったとき、最初に誰に聞く? | バディの位置づけの確認。「上司でもよい」と添える |
| ギャップ | 入社して1週間、聞いていた話と違うと感じたことはあった? | 「言ってもいい」と伝える。小さなギャップを早く拾う |
最後に上司から一言添えます。「聞くことは仕事の一部。質問ではなく『こう理解したが合っているか』という確認で進めてくれていい」——この一言が、その後の90日の質問の量を決めます。
30日:受容と手応え
30日の1on1は、導入フェーズの終わりです。「聞ける相手がいるか」「小さな仕事をやり切れたか」を確認し、次の30日の役割を更新します。30日サーベイの結果があれば、低い設問を入口に使います。
30日の問い(30分・4問)
| 系統 | 問い | 狙い |
|---|---|---|
| 受容 | この1か月で、聞いて解決したことと、聞けずに進めたことを1つずつ教えて | 「聞けずに進めた」が出れば、聞けない理由を探る |
| 手応え | 一番手応えがあった仕事はどれ? 何が良かった? | 達成経験を本人の言葉にする。「できた」を返す |
| 内省 | 時間がかかった仕事で、次に同じ場面が来たら何を変える? | 反省ではなく教訓を引き出す |
| 役割 | 次の30日で、自分で決めてよい範囲を少し広げたい。どの仕事なら任せられそう? | 役割の更新を一緒に決める。裁量の輪郭を渡す |
60日:ギャップと意味
60日は、慣れと同時に「思っていたのと違う」が言葉になる時期です。ギャップを言葉にする場を作り、仕事の意味を本人が語れるようにします。ここで拾えなかったギャップは、2年目以降に離職意思として現れます。
60日の問い(30分・4問)
| 系統 | 問い | 狙い |
|---|---|---|
| ギャップ | 入社前の想像と違ったことを、良い方と悪い方で1つずつ教えて | 悪い驚きと良い驚きの両方を拾う。悪い方には「なぜそうなっているか」を説明する |
| ギャップ | 「前からこうだったのかな」「もっとこうすればいいのに」と思ったことは? | 提案を「甘え」ではなく「見えてきた証」として受け止める |
| 内省 | 今の仕事は、誰の何の役に立っていると思う? | 仕事の意味を本人の言葉で。言えなければ上司が背景を渡す |
| 手応え | 今の仕事の難易度は、簡単すぎる・ちょうどいい・難しすぎるのどれに近い? | 難易度の調整。「簡単すぎる」なら60日以降に一段上げる |
90日:独り立ちと次の目標
90日は、独り立ちの手前です。3か月を振り返り、次の90日の目標を本人と一緒に描きます。上司が目標を「渡す」のではなく、本人が「言う」形にします。
90日の問い(30分・4問)
| 系統 | 問い | 狙い |
|---|---|---|
| 手応え | 入社時にできなかったことで、今できるようになったことを3つ挙げて | 成長を本人の言葉で確認する。上司からも1つ加える |
| 役割 | 今、自分が何をすべきかを人に説明できる? 説明してみて | 役割の明確さの最終確認 |
| 内省 | この3か月で一番の教訓は何? | 90日の教訓を1行にする。次の90日の起点になる |
| 役割 | 次の90日で何を目指したい? 自分で決めたい範囲はどこ? | 次の目標を本人が言う。上司はそれに期待と条件を添える |
問いの使い方:3つの原則
問いは道具であり、使い方で効果が変わります。
問いが機能しない使い方と、機能する使い方
機能しない
- テンプレートの問いを上から順に全部聞く
- 答えに対して「それは違う」「こうすべき」と評価を返す
- 上司が7割話す。新人は「はい」で終わる
- 記録を残さず、次回は「前回何を話したっけ」から始まる
機能する
- 各回3〜4問に絞り、サーベイで低かった系統を優先する
- 答えをまず受け止め、「もう少し聞かせて」で深める。評価は別の場で
- 新人が8割話す。沈黙を上司が埋めない
- 「本人の言葉」と「次に変えること」を1行ずつ記録し、次回はそこから始める
研究では、上司の発展的なフィードバック——良かった点と次に伸ばす点——が、新人が自らフィードバックを求める行動を引き出す「ポジティブ・スパイラル」を生むことが示されています(尾形, 2020)。1on1で新人の答えに「それは良い教訓」「次はこの点を伸ばそう」と返すことが、次回の1on1で新人が自分から話す量を決めます。設計の全体は1on1の設計、上司の30日の行動は新人受け入れで上司がやることリストで解説しています。
新人1on1の問い、3原則
- 「状態」ではなく「行動」を、「評価」ではなく「事実」を、「全体」ではなく「一つ」を聞く
- 5系統(役割・手応え・受容・内省・ギャップ)から各回3〜4問。時期で重点を変える
- 新人8:上司2。答えをまず受け止め、「本人の言葉」と「次に変えること」を1行ずつ記録する
問いのテンプレートは、上司が毎回思い出して使える量ではありません。onbx(WellColab が提供するオンボーディング基盤)は、90日ジャーニーの初週・30日・60日・90日の1on1タスクに、時期ごとの問いをあらかじめ添え、30日・60日・90日のサーベイで低かった系統を1on1の入口として示し、「本人の言葉」と「次に変えること」の記録を新人ごとの時間軸に残すことで、上司が問いを探す時間をなくします。
よくある質問
問いを変えても、本音が出ません。
多くの場合、「話したことが評価に使われる」と新人が感じているためです。「1on1で話したことは評価に使わない」と明示し、上司が自分の失敗談を先に話し、新人の答えを評価せずまず受け止める——この3つを数回続けると、「話しても大丈夫」という経験が積み重なり、本音が出始めます。
どうしても進捗確認になってしまいます。
進捗は別の場(朝会・チャット・日報)で確認し、1on1では「行動」と「次の一手」だけを聞くと決めてください。テンプレートの問いは、進捗を聞く問いを含んでいません。「今週の仕事はどこまで進んだ?」ではなく「今週、時間がかかった仕事はどれ?」から始めます。
30分も取れません。
15分なら2問に絞ります。優先は「手応え」(今週一番手応えがあった仕事は?)と「内省」(次に同じ場面が来たら何を変える?)です。この2問だけでも、達成経験の確認と教訓の引き出しは成立します。
記録は何を残せばよいですか?
「本人の言葉」(手応え・ギャップ・教訓をそのまま)と「次に変えること」の2行で十分です。上司の感想は不要です。次回の1on1を「前回、次に変えると言っていた〇〇はどうだった?」から始められれば、記録は機能しています。
さいごに
新人1on1で会話が続かないのは、新人の口の重さではなく、問いの形の問題です。「困っていることは?」を「今週、時間がかかった仕事はどれ?」に変え、役割・手応え・受容・内省・ギャップの5系統から、時期に合わせて各回3〜4問を選んでください。新人が8割話し、上司は受け止めて記録する——この形が続けば、1on1は上司にとっても「新人の変化が最も早くわかる場」になります。役割の渡し方はロールクラリティの重要性、サーベイとの接続は新入社員向けパルスサーベイの設計をあわせてご覧ください。



